井上達夫

「普遍的なものなんて、この世にない」と言う人に先ず、本書を読んでもらいたいと思います。別に論駁したいからではないのです。なぜなら、その必要はないからです。この信念は「いかなる普遍的命題も真ではありえない」という最も傲慢な種類の普遍的命題に他ならず、それが真だとすると、まさにそのことによって偽になってしまいます。私が論駁するまでもなく、このような信念は自己論駁的なのです。それにもかかわらず、なぜ、最も洗練された知識人たちをも含めて、現代人の間にこのような倒錯した信念が瀰漫しているのか。私が問いかけたいのは、このことです。